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2023/09/02

Elona秋のSS -2023-

 (:3)刀乙のお題は「はるかな城」です。
できれば作中で「塔」を使い、ひとりぼっちの『パエル』を登場させましょう。
https://shindanmaker.com/393187

物心がつく前に、父さんを亡くした。
去年に母さんもいなくなり、一人では手広く感じる部屋で暖炉に薪を焚べる。
自分だけの食事を用意するのは、いつまで経っても慣れない。

村の人たちは優しい。身寄りのない女が体を売らずに暮らしていけるよう仕事を紹介してくれたり、何かにかけて様子を見に来てくれる。
年頃の友人も増えた。母さんと二人で暮らしていた頃は、家に引きこもって空想ばかりしていたのが嘘みたい。
誰も立ち入ることの出来ない塔に幽閉されたお姫様に自身を重ねて、雪被る家の窓から灰色の空を眺めるのが常だった。
けれど、今は。

母さんが望んだ私の幸せを続けても、幸せであろうと励むほど、言いようのない孤独に苛まれる。
そしていつしか、再び夢想を繰り返していた。
行商のおじさんから聞いた外の世界。村を取り巻く雪原を越えて、西のはるか彼方に大きな城があるのだと。
城の周りには大きな街が栄え、色とりどりの屋根瓦に季節を彩る数々の花で溢れている。
世界中から人が集まり、見知らぬ人々が見知らぬまま、広場は活気に満ちているらしい。
「パルミア‥‥」
私の口から、はるかな城の名が零れる。誰に聞かせるでもなく、ポツリと。

そこに行けば、誰も私の事なんて知らない。父さんと母さんの事を聞かれる憂いもない。
そこに行けば、私はひとりぼっちのまま、もっと気楽に生きられるかもしれない。

パエルは、ただ黙々と包丁を動かす右手を見つめていた。

-了-

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