(:3)刀乙の小説が読みたいの!
「魅惑の結婚」をテーマに、できれば『秘密の経験』と《収穫のクミロミ》も出てくる小説を書いて欲しいの!
#shindanmaker #EloSSfes
https://shindanmaker.com/354401
太陽が沈むのを忘れると、村に短い夏がやって来る。
永遠の黄昏に祈りを捧げ、秋の豊穣を願う祭が始まる。
この夕暮れは無礼講だと、物蔭で男と女は睦み合い。
やがて新たな命を宿しては、来たる冬に備えるのだった。
パルミアから離れた寒村に未だ聖女の教えは浸透しきっておらず。
森に寄り添う古きしきたりが色濃く根づいていた。
「夏至祭の森に踏み入ってはならない」
サマルインは幼い頃から、村の大人たちにそう言い聞かされてきた。
今なら理由は分かる。祭で大人たちは忙しいのだ。
何かあっても誰も見ていない、気づかない事だってある。
だから子守は年長組の大事な仕事だった。
それでも彼はいい加減、大人の仲間入りをしようかと悶々と過ごし。
頬のにきびをいじりながら、祭を待ちわびていた。
森の入口あたりまでなら長老たちも煩く言わないし、茂みも多い。
薄暗い藪の中で、誰ともしれず情交するにはもってこいだ。
村では代々、そうやってきた。
年頃の連中は誰もが知っているのだから、生まれてくる子をいちいち詮索しない。
サマルインは期待に胸を弾ませながら、誰に初めてを散らすのだろうと思い耽る。
「――うん?」
視界の隅で、何かが揺れた。
顔を向けて目をこらせば、木々の向こうに小さな手足が見える。
それは人の姿となり、背中には虫の羽が伸びていた。
「妖精だ‥‥」
突然の出来事に呆けていると、妖精の数は1つ2つと増えていき、森の奥へ進んでいく。
彼は熱に浮かされたように、それでいて気づかれぬよう慎重に後を追った。
森の開けた一画で、沢山の妖精が飛び回っていた。
多くはただ無邪気に舞い踊るだけだが、原っぱのそこかしこで何かの準備を進めている。
「あいつら、祭でも始めるのかなぁ‥‥」
だとしたら、なんて幸運が舞い込んだのだろう。
森に潜む妖精たちの秘密の儀式を覗き見れるなんて、一生に一度あるかないかの経験だ。
固唾を呑んで見守っていると、不意に妖精たちは騒ぎを止めて森の奥へ体を向けた。
――ざわりと風が吹けば。
視線の先に、白の婚礼衣装をまとう花嫁が現れた。
それは、なんて美しい人だろう。
陽を遮る森の薄闇でも色褪せぬ小麦色の髪は、薫風に揺れて柔らかな光を振りまいた。
白い衣はどこまでも薄く軽やかで、遠目からでも素肌のシルエットを映し出す。
「誰だよあれ‥‥村にあんな娘はいねえ」
その人は妖精を従えながら広場の中央まで歩み寄ると、緩やかに両手を広げ言葉を紡ぎ出す。
朗々と渡る艶やかな音色に耳をくすぐられたサマルインは、腹が熱く滾るのを感じた。
裸同然の舞姫が腕を振るえば、妖精たちも歌い踊る。
太腿もあらわに一歩踏み出せば、妖精たちがもつれ合う。
そして花嫁は妖精の輪に囲まれ、入り乱れては笑い声をあげた。
「ふう‥‥っ、ハァ‥‥」
サマルインは目の前の光景を凝視したまま木立に寄りかかった。
目を背けるなんて出来ないが、息をするのも辛くもどかしい。
吐き出したかった。声も張り裂けるほどに。
いや、声じゃない。本当に吐き出したいのは胸のもっと奥。
「‥‥あぁッ!」
不意に頭の中が真っ白に染まり、洋袴の中で渦巻いていた奔流が決壊する。
息も絶え絶えに、ただ呆然と天を仰いだ。
「ふぅん、覗き見するいけない人なんだ。お兄さんは」
ぼんやりと霞む視界に、あの綺麗な声が割り込んだ。
「‥‥えっ」
すぐ隣に、あの花嫁がいた。
近くで見れば薄衣の下には何も身に着けておらず、華奢な四肢も小粒な乳首も透けて見える。
どこか湿り気を帯びたこの世ならざるヴェールから、じっとりと花の香りが滲み出ていた。
「村の祭を放り出して、入っちゃいけない森の中で」
顔立ちはどこか中性的で、女にしては仄かに低い声音に咎める色は含まれず。
「ぜんぶ吐き出すのが、好きなんだ。お兄さんは」
穏やかに諭すように語りかけながら、花嫁の指先がサマルインの胸に触れた。
「ッ! ぅあッ!?」
今までとは違う熱い迸りが体内で膨れ上がるのを感じ、たまらず背後の幹に後ろ手でしがみつく。
「命の結びを、ヒトは結婚と呼ぶのだったね」
張り裂けそうだ。自分でしごくのが馬鹿馬鹿しいほどに何もかも張り裂けそうだった。
息を吐けば炎が噴き上がりそうだ。見開いた目玉は星まで伸びそうだ。
「‥‥‥‥!」
ゴボリと膨れ上がる体に喉が潰され、声なき声と共に絶頂した。
サマルインの胞子を全身に浴びた花嫁は森に消え、根本には役目を終えた大きな茸が萎びていた。
-了-
0 件のコメント:
コメントを投稿