(:3)刀乙のお題は「失われた玉座」です。できれば作中で「芸術家」を使い、ヨウィンを舞台にしましょう。
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「無い! ないぞ!? このロシタリの願いにそぐわぬなど馬鹿げている!!」
男は微動する巨大な鋼鉄の獣の肩口から首筋の辺りに取り付き、何かを探していた。
ロシタリは天才と称されていた――狂人とも。精緻に息詰まる世界でユーモアを抱く数少ない者の一人だったが故に、芸術家と呼ばれた。迷惑も顧みなかったが。
「手に入れた設計図が古かったのか? 偽物?? ちくしょう!」
目の前には人がひとり潜れそうなハッチが確かにある。だが、開けた先は明滅する機械の山で埋められ、足の踏み場もない。
「我が椅子が‥‥世に美をもたらす玉座がないなどと‥‥おお!」
人に造られし獣は力だ。普段は自律行動でも、それが人の邪魔をしては困る。そこで緊急時に人が乗り込む操縦席も備え付けられていた。はずだった。
「今がその時だと‥‥我が座すための此奴が不具だなどと! おのれエイス!!」
力任せに拳を叩きつけていたら、興奮しすぎてむせた。開けっ放しのハッチにしがみついて発作が収まるのを待つ。
都市は行き詰まっていた。開発に開発を重ね続けて利権の根が土地を覆った結果、遅々として進まぬインフラ整備。渋滞なき摩天楼は銀幕の思い出に去り、新たな流通手段として飛び立った機甲の羽虫は、ビル群に張り巡らされた電磁波の網に焼かれる始末。
一度、全てを焼き払い陽射しの降り注ぐ大地から次世代の萌芽を育てる必要があった。行きつけのカフェは残すとしても。他にも幾つか‥‥。
「ゼェ‥‥ハァ‥‥なに、失われたなら作り出せばいいじゃないか。ここで!」
ロシタリは銃を抜き、目の前のガラクタに向けて引き金を引いた。機材の明滅が不規則に早まる。これを置いたまま弄っても自分が座る空間がない。なら、使う部品もないだろう。
「こんな事なら手頃な重機も持ってくるんだったな。引きずり出すためのアームが、あー?」
いつの間にか背後から伸びてきたアームが男の背中を掴み上げた。
「そう、こういうの! もっと細い奴がいいな、狭いところに差し込め‥‥」
アームは巨体から離れた所で指を開き、ロシタリは床に落ちて潰れた。
「バグを排除しました。メンテナンス‥‥36%‥‥」
時は流れ――玉座なき権能は、ヨウィンの外れにそびえる岩山の奥で静かに眠っている。
-了-
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