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2019/09/01

Elona秋のSS -2019-

(:3)刀乙のお題は「しびれる依頼」です。できれば作中で「夢」を使い、パルミア少将『コネリー』を登場させましょう。
#EloSSfes
https://shindanmaker.com/393187

 客人をお連れしましたと衛兵が告げ執務室の扉が開かれると、人影よりも先に届くはずもない夜の香りがほのかにコネリーの鼻をくすぐった。
 現れたのは孫くらいの年頃と思われる少年と少女。背丈や顔立ちから娘のほうがやや年上だろうか。どちらも貴族の子息のように上等なシャツをまとい、活動的な短袴を穿いている。
「よく来てくれた。おぬしたちの名声は儂の耳にも届いているぞ、夜香探偵」
 コネリーはこわばった頬を緩ませ、呼び寄せた客人をソファへ促す。
 ああ、それにしても。
 なんと、なんと美しい造形か。
 月の光を浴びて生まれてきたような少年の面差し、うっすらと蒼を帯びた銀の髪。襟元から覗く首すじは下ろしたてのシャツよりも白く、ネクタイの黒が否応にもそれを際立たせる。
 だが、やはり。短袴から伸びる細い脚が。新月の入れ替わりにも似た双弧の輝きがあまりにも眩しく。
「こちらこそ。来訪の時間を指定してすみませんね。なにぶん昼間は寝ているものでして」
 少年の声で我に返った。隣では少女がいたずらっぽく口元を歪ませている。
 娘のほうもまた鮮烈な出で立ちだった。けっして背が高いわけではないが、すらりと胸を張り正面を見据える様は、見た目によらぬ威風に包まれている。後ろでまとめた赤い髪は腰に届くほどで、歩く度に揺れては陽炎をにじませる。それは北の辺境にそびえ立つ灼熱の塔を想起させた。
 テーブルを挟んで向かい合った所で、少年が口を開いた。
「改めて。お目にかかれて光栄です、コネリー少将。僕はツェペシュ、探偵業を営んでおります。こちらは助手のカスパール、お見知りおきを」
 傍から見れば老人と孫たちの他愛もないままごと遊びと映るだろう。しかし、コネリーの眼差しは対等の仕事を担う者へ向ける光を帯びていた。
「ああ、おぬしたちを呼んだのは他でもない――」
 数瞬、目をつむり、再び小さな探偵を見やる。
「――夢を、かなえてほしいのだ」

 先月の末から、パルミアの現女王スターシャが心労からか毎晩悪夢にうなされているという。今は気丈に振る舞っているが日々の重責もあり、ここで倒れられては諸外国によからぬ切っ掛けを与えるのは間違いない。
 そこで、コネリーは女王を悩ます夢の解決を専門家に任せることを決断した。
「依頼内容、期日、報酬‥‥承りました。明日また同じ時刻に訪れますので、女王陛下の容態を診るための手筈をお願いします。――っと、そうだ」
 席を立って帰り支度を済ませたツェペシュがおもむろに近寄り、コネリーの顔を覗き込む。
「将軍、どうやら貴方も休息が必要ですね」
 夜の美貌から目を離せないまま意識は混濁し、倒れ込むコネリーが怪我をせぬよう少年がソファへ横たわらせる。その時、老将の背中から小さな影がカサリと這い出し、娘の右手が目にも留まらぬ速さで薙いだ。
「お見事。じゃあ帰ろうか」

 月のない城下町を二つの人影がコツリコツリと歩いている。
 いや、月はそこにあった。銀の輝きはそれ自体が光を放っている様、ならば付き添う娘は月輪の焔か。
「かにちゃん、最近の町はどんな感じだい」
 彼はカスパールを親しみを込めてかにちゃんと呼ぶ。そんな関係を続けて久しい。
「うーん、涼しくなってきて嫌だね。草虫の鳴き声はきれいだけどさ。でも、町の人達にしてみれば暑さも和らいで嬉しいはず。その割には‥‥」
 短袴のポケットに両手を突っ込んで、赤毛の少女は前を見ながら踵を鳴らす。二人の歩調は崩れない。
「中央広場の噴水前でも、どこか喧騒が遠い。ベンチで昼寝してるおっちゃんも目立つ」
「うん。王城の衛兵さん達も、なんだか欠伸を我慢してる感じがしたね」
 ツェペシュは軽く目を閉じたまま風の音に身を預ける。その足取りに迷いはなく、彼のために道が伸びていく様だった。
「僕たちが受けた依頼は女王一人の悩みだけど、本当の問題はこのパルミア全体に隠れているんじゃないかな。きっと、夏の夜の忘れ物が」
 コネリーの背中に憑いていた影には、かすかに茸の香りが残っていた。熱を帯びる季節に浮かれ騒ぐのは、なにも人間だけではない。
「かにちゃん、久々にしびれる依頼が来たと思わないかい」
 少年は神々しい微笑みを相棒に捧げた。

 -了-

 ※夜香探偵ツェペシュ及び助手のカスパールは、仮面の『マスティフ』氏の冒険者よりお借りしました。謹んで感謝を申し上げます。

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