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2019/06/01

Elona夏のSS -2019-

(:3)刀乙のSSが読みたいの!
「足が速い卵」をテーマに、できれば『遺跡』と掃除屋『バルザック』も出てくるSSを書いて欲しいの!
#EloSSfes
https://shindanmaker.com/354401

「バルザック、そっちに向かったぞ!」「おう!!」
 下水をかき分け逃げ惑う影に三叉槍を突き刺し、動きを留める。ぐにゃりと身悶えながら徐々に動かなくなる本体と、それでも生き存えんと分裂する粘体。
「掃除完了」
 バルザックは汚物に硫酸の小瓶を振りかけ焼き尽くした。

 先日の地震はルミエストの各所にも被害を及ぼしていた。町の清掃員も下水道の状況を確かめるため、総出で地下に潜る。
「こいつは掃除のし甲斐があるな、バルザック」
 その仕事に懸ける熱意で同僚からも半ば皮肉交じりに『掃除屋』と称えられる男は、「ああ」と短く答えランタンをかざす。
 下水道の一画が崩れ落ち、開いた穴からじくじくと何かが漏れていた。
「‥‥深いな、ただの隙間じゃない。ロシポンド、壁生成の杖で応急処置を頼む」
 壁を修復する相棒の背後で汚水が揺らぎ、餌を飲み込む口を形作る前に三叉槍が差し込まれた。
「! バブルか、魔術師ギルドがまた何かやらかしたのか?」
 この粘体生物は魔術師が様々な実験の素体として用いるらしく、処分に困って下水に流す馬鹿もいる。その度にギルドに乗り込み意見を述べてきたが、一向に改善される気配はない。
「ロシポンド、汚物の処理を優先だ。行き止まりに誘い込むぞ」

 バブルの処理は終えたものの、残された清掃活動を考えてロシポンドは思わず溜息をついた。排水に詰まらない点だけは助かる死体をモップで押しやる中、半透明の長瓜に似た物体を見つける。
「‥‥おいバルザック、こいつら何か抱えてるぞ。もしかして卵か?」
 軽く小突いただけで崩れたそれはプンと嫌な臭いを残し、下水へ溶けて消えた。
「もう腐ってる‥‥随分と足の速いこった」
 相棒の言葉を聞いて、バルザックは残りの卵を念入りに砕いて回る。
「これで増える心配は無いだろう」
「まぁ、腐肉を糧に内海の魚が肥える分には問題ないさ」
「ギルドも同じ言い訳をするのが許せん」
 全くもって気に食わないが、壁に空いた妙な穴の事も相談しなければならない。あの暗闇の奥がネフィアに繋がったとすれば、厄介な魔物が溢れる心配もある。
「ロシポンド、壁はどのくらい張れたかな」
「手前を隠せただけだ。砕いて掛けなおすにしても杖の残量が心許ないぜ」
 バブルを追い込むときにも何度か杖を振っていた。そちらの撤去も必要だった。
「よし、一旦地上に戻ろう。流石に疲れた」

 地震で下水道と繋がった遺跡は、やはり次の地震で跡形もなく消えてしまった。
 いつもの様に壁を修復し、バルザックはふと思い出す。
 あの時、壁の穴から漏れていたのは何だったのだろう。

 それとも、こちら側から何かが穴の奥へ這って行った足跡ではなかったのだろうか。

-了-

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