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2019/03/01

Elona春のSS -2019-

(:3)刀乙のお題は「朝の肉」です!できれば作中に『におい』を使い、混沌の寵児『オルフェ』を登場させましょう。
#EloSSfes
https://shindanmaker.com/331820
診断の名前を間違えたけれど、まぁいいか ⊂( ⊂ ε:)

 沈みゆく月を追いかけ、荒れ地の空をカラスが羽ばたいてゆく。
 赤紫から、やがて緋色へにじむ雲が流れていき、ヒトの巣から煮炊きの煙がぽつぽつと上がりだすと、一際高い建物から燐にも似た光条が天へと伸びていった。
 カラスは行く。翼をひと打ちすれば、眼下に広がる枯れた森。その向こうにくすんだ町。
 ここのヒトは夜に疎いのか、太陽が姿を現す前から鉄を引き裂く音を鳴らしている。
 それでも、入り組んだ路地の一角から光が天を差した。
 海を越える。雪原の氷城から光が昇る。雪に覆われた村から光が昇る。小島から、海岸沿いの古都から、太陽の道しるべとなるかのように。
 カラスが笑った。気に障る響きは、奇妙な遺跡から立ち上る光の梯子をくすぐった。
「君は肉体を捨ててなお、生身の熱が恋しいのかい?」
 笑う。ヒトが家族よりも先に信じる者へ捧げる、朝の供物を。
 夜が明けていく毎に、町から光がほとばしる。
 かろうじて薄暗い水平線の果てから一筋の光が昇るのを目にし、カラスは鳴いた。翼をひと打ち、ふた打ち、視界はぐやんと流れ、そのまま夜と共に消えた。

 男が伸ばした右手に黒い羽ばたきが止まり、カァと告げる。
「ふふん。神々の朝食は、いつも芳醇な香りに包まれているね」
 皮肉めいた笑みを浮かべて右手を振るい、濡羽色の長剣を鞘へ収めて何処かへと霞んでいった。

 残されたのは、腹をすかせるにおいが、ふわり。

-了-

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