(:3)刀乙のお題は「本能の木」です。できれば作中で「長棒」を使い、ネフィアの中を舞台にしましょう。
#EloSSfes
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粘つく網に気を取られた魔狼の喉笛をニスヤンの切っ先が弾いて仕留めると、サルネックは魔力の枯れた杖を床に投げ捨てた。
「ひいー、熱っちい。洞窟の主がケルベロスだなんて地獄かよ」
「服が燃えなかっただけマシでしょ。荷物は少し軽くなったけど」
まずは自分の身を守るのが先と、鎧やマントに不燃の処理を済ませたが、雑嚢袋の中まで手が回らなかったのが恨めしい。
欲しい時に耐火ブランケットが売られているとは限らないのも世の中だ。
気を取り直してネフィアの主と遭遇した広間を漁ってみると、岩陰から横長の宝箱が見つかった。
「そこは今から開くこいつが埋めてくれるさ」
サルネックが慣れた手付きで宝箱を開けると、横から覗いた女が眉をひそめる。
「なあに、苦労して手にれたのが棒きれ一本だけ?」
箱に収められていたのは、絡まる蔦の意匠が施された白木の長棒が一振り。
「掘り出し物であることを祈ろうぜ。鑑定の巻物は残ってるか?」
二人とも魔法の心得がないのが、こういう時に不便だった。
「さっきの戦闘で、あらかた燃えちゃったよ。あ、杖がある」
ニスヤンが少し焦げた鑑定の杖をサルネックに手渡した。
「残り少ないな、頼むぜ‥‥なになに『本能の木』だと?」
男は杖を片手に眼下の宝物を慎重に見極めていく。呪われていない事を確認するまで、迂闊に触れるわけにはいかない。
それは木で作られている
それは武器として扱うことができる
それは‥‥
「それは心の奥底で願っている事が叶う」
初めて見る鑑定結果に、二人は思わず顔を見合わせた。
「願いの杖とは違うのかい? なんだか胡散臭いね」
「胡散臭くても金になればそれでいいさ‥‥揺れ?」
天井から埃や小石がパラついてきたと思ったら、振動が徐々に大きくなっていく。
「オパートスの名に懸けて! こんな時に」
二人は即座に岩壁に身を寄せると、ニスヤックが長盾を頭上に構えて落石から身を守る。
やがて、揺れは遠ざかっていった。
「収まったか。今の地震で魔物たちも陰に引っ込んだのか、やけに静かだな」
どさくさに紛れて戦士の尻を揉んでいたサルネックが、安堵の息をつく。
「今のうちに外へ出るとしよう」
殴られた頭を抱えて呻く小柄な男を置いて、ニスヤンは洞窟の入り口へ引き返した。
ニスヤンが行き止まりを調べている背後で、サルネックが地図と目の前を交互に見渡す。
「おかしいな、辿ってきた道は確かに此処で合ってる」
「土砂で埋まっているのを抜きにすればね」
ネフィアは周期的な地殻変動で、ノースティリスの辺境に現れては消える。
先ほどの地震で、この洞窟の入り口も地上から消えてしまったのだろうか。
「オパートスの名に懸けて、そりゃないぜ!」
男は不要となった地図を放り投げ、思わず顔を覆う。
「ここから地上までの距離を考えると、掘るわけにもいかないか」
ニスヤンは溜息を一つ吐くと、壁際に腰を下ろして背を預けた。
「太陽を拝む前に腹ぺこで死んじまうよ。帰還の巻物は」
「さっき燃やされたでしょ。脱出の巻物も」
「こんな事なら魔術師を誘うんだったなぁ」
サルネックは女戦士の横に座り、荷物から酒筒と盃を二つ取り出した。
無言で過ぎ去る暗がりの中、時おり喉の動く音が響く。
人心地ついて、ニスヤンが口を開いた。
「ねえ、さっき手に入れた長棒の力で外に出られない?」
女の問いかけに、男が先ほどの戦利品を取り出す。
「命あっての物種ってか。試すけどよぉ」
二人とも、最後の鑑定結果が気にかかっていた。
「心の奥底で願っている事。これが目の前の解決とは限らない」
共に冒険を続けて結構な時間を過ごしたが、お互いに何を一番願っているのかなんて分かりようもなかった。
「恨みっこなし、いいな」
サルネックとニスヤンは地面に立てた長棒を二人で握り、解放の言葉を唱えた。
「はは、大成功だ!」
土まみれの枝に腰掛け、サルネックは眼下を見渡す。
「なるほど『本能の木』とは上手いことを言う」
ニスヤンが見つめる先を鳥の群れが横切っていた。
「長棒の願いを叶えるとは思わなかったがな」
二人が強く念じた途端、長棒は洞窟に根を張り見る見るうちに成長を遂げた。
そして、巨木を中心に据えた森のネフィアが辺り一帯を覆っている。
ニスヤンは勝利の鼻歌を口ずさむ男に視線を向けると、素朴な疑問を切り出した。
「ところで、どうやって下まで降りる?」
-了-
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