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2017/06/01

Elona夏のSS -2017-

(:3)刀乙の小説が読みたいのだ!
「神々しい妹」をテーマに、できれば『扉』とザナンの皇子『サイモア』も出てくる小説を書いて欲しいのだ!
https://shindanmaker.com/354401



世界に拒絶されるのは慣れている。物心ついた時から。
椅子の背もたれに身を預け、そっとまぶたを閉じる。ひとときの安らぎに抱かれ、否応なく外に囲まれている現実を追い出した。
「あの子は‥‥」
あの子もまた慣れていたのだろう。そうに違いない。なぜなら彼女は、生まれも、育ちも、人里で暮らしていくにはあまりにも弱かったから。
周囲の人々から投げつけられる侮蔑のまなざし、諦め混じりの世辞。
アルティハイトの港で、小雨に濡れるあの子の横顔に自らの境遇を重ね――。
「君は、世界をあるがままに見つめた」
そして、あの子を支えるように金髪の少年が横に並び、二人は孤児として倉庫の影へ消えた。
私が見つけることの叶わなかった道を、あの子は選んだ。

遠出の際にアルティハイトへ立ち寄る機会が増えた。いや、外に出かけること自体が増えたかもしれない。
あの日に出会ったエレアの少女と人間の少年は、港にある倉庫の片隅に寝床をしつらえ、日々を懸命に生きていた。
二人の仲睦まじさは血の繋がった兄妹にも見え、私は静かにその場を立ち去る。
ザナンは戦と共にあり、傷痍軍人や戦争孤児への手当が不可欠だと王宮で訴え続けてきた。
だからこそ、民の貧困がどういうものかを知っていたし、あの二人も今そこに身を置いている。
それでもなお、この町で生きると決めたあの子の姿が神々しく思え、世界を裏切り彼女に寄り添うと決めた少年は、ただひたすら気高かった。

第二皇子という身分は、宮廷内での発言力はともかくそれなりの資産を融通しやすい。私は生まれて初めて己の境遇に多少なりとも感謝した。
口の固い部下に幾らか包み、港町で暮らす兄妹の元へこっそりと届けさせる。
何度も夢見た。私が自ら足を運び、二人の様子を見に行きたいと。一度は視察と称して倉庫街の入り口まで赴いた。
だが、あの古びた板張りの扉に手をかけようとは思えなかった。
二人に顔を見られるのが怖かったのだ。部下にも援助する者の名前は決して明かすなと念を押した。
執務室で物思いに耽りながら、入り口の扉に目を向ける。
あの二人なら、私の生い立ちに涙を流してくれるだろうか。その後、一緒に笑い合える友人になってくれるだろうか。
いや、もしも。
もしも、私が今の身分を投げ捨てて、あの薄汚い倉庫の路地裏に飛び込んだら‥‥? 馬鹿馬鹿しい。それでは二人の生活まで立ち行かなくなるではないか。
そこまで考え、私が二人の運命を握っているのだと、暗い喜びに口元を歪める。
あの扉だ。あの向こうには光がある。
こちらから行くにしろ向こうから来るにしろ、世界を隔てるあの扉さえ開いてくれたのならば――。

――呼び鈴が鳴った。

ハッと我に返り、私は高鳴る胸を押さえながら椅子に座りなおす。
「何事だ?」
扉の向こうで使用人が用件を告げた。


-了-

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