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2017/03/01

Elona春のSS -2017-

風切快夢のお題は「終わりの魔法使い」です!できれば作中に『囚人』を使い、生化学者『イコール』を登場させましょう。 #EloSSfes
https://shindanmaker.com/331820




廃砦に剣戟の音が響き渡る。野盗の根城に飛び出した戦士が手前の一人を切り払い、色めき立つごろつきたちの頭上に無数の矢が降り注いだ。
がむしゃらに武器を振り回す戦士の背後から襲いかかろうとナイフを構えた男の顔に、魔法の玉が炸裂する。

「いやぁ助かったぜ。流石は“終わりの魔法使い”さんだ」
ヘレナの祈り亭でジョッキを掲げながら、数合わせのパーティーは生還を祝う。
「はは、奇襲に成功したのは皆の手柄ですよ」
にこやかに応対しつつも、ガンダラックは悩みを抱えていた。
どうにも行動が遅いのだ。今はまだ思慮深さや慎重さと受け取られ、それが異名として語られる様にもなったが、いづれ蔑称に変わるのではないか?
そんな不安でうなされる夜もあった。
この世の何処かには、ヘルメスの血と呼ばれる俊敏さを高める秘薬が眠っているとも噂されるが、あいにくそのような宝はまだ見たこともないし、もし売りに出されたとしても法外な値段がつくだろう。
悩みに悩んだ末、ガンダラックは町のある一角を訪ねた。

「合成で素早くなりたいじゃと? そりゃ無理じゃ。筋力を増大させるのとは訳が違うのでな‥‥ああもう泣きつかれても困るわい!」
生化学者イコールは、異なる生物を合成してより強力な個体を生み出す研究者として名を知られている。どちらかというと変人や狂人としてだが。
それでも、彼の施設には異様に前脚の肥大した犬や小さな翼の生えた猫が歩く姿も見られ、研究内容が嘘ではないことが窺える。
「そこをなんとか! 速度さえ上がれば他は我慢しますから!」
イコールはうんざりした顔で床にへばりつくガンダラックを見下ろしていたが、ふと研究仲間の話を思い出した。
「そうか、他は我慢するんじゃな? じゃあ、差し当たり猫の手でも借りてみるか」

合成機の蓋が開くと、初老の男がひょいと覗き込んできた。
「気分はどうじゃ、魔法使い。これで元の体よりは素早くなったはずじゃぞ?」
研究室の床にタタっと降り立つ。体が軽く感じられるのは、小さくなったからだけではなさそうだ。
「ん? しきりに鳴かれても何を喋っているのかわからんぞ。まぁ実験成功に感謝しているのじゃろ」
猫は大笑いする男をしばらく見上げていたが、やがて研究所の外へ飛び出して行った。
(ここから出してくれ!)

-了-

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