(:3)刀乙のお題は「動く木」です。できれば作中で「カード」を使い、伝説の職人『ガロク』を登場させましょう。
#EloSSfes http://shindanmaker.com/393187
('ω')
(ε:)
(,m,)
(:3)
:( •᷄ὤ•᷅): トド ハ ドウシテ エント ナノ????
パルミアの東に広がるノースティリス大氷原に、その工房はあった。
人里離れた雪原の奥にありながら、腕の良い二人の鍛冶職人がいることは半ば伝説めいた話で知られており、己が命を預けるに足る武具を求める戦士や、或いは金と暇を持て余した貴族が世界に二つとない自慢の武具を注文しようと時おり足を運ぶものの、その度に偏屈な職人たちは「忙しいから」と申し出を断っていた。実際は二人とも気に入った仕事しか選ばなかっただけだが。
その平屋の工房には、天井に届くほど大きな機械があった。ろくろにも似ていたが上部の所々から支柱と簡素な腕が伸びている姿は、葉の落ちた樹木の様でもある。
その脇で、屈強な小男がハンマーを振るう。すると、樹木から伸びる腕が相槌を打つ。それは、一分の隙もなく最短距離を進み、鉄床の上に置かれた剣身に当たった。
男がさらにハンマーを振るう。先ほどと同じ腕がまったく同じ軌跡を描いて相槌を打つ。振るう、打つ、振るう、打つ‥‥。
作業が一段落ついた所で部屋の入口から声を掛けられた。
「どうだ、ガロク。《ブランチ》の具合は」
ガロクと呼ばれた男は叩き上げたばかりの剣身を確認しながら背後に応えた。
「お前が作り出したものの中では最高傑作だな、ミラル。お前と違って仕事に無駄がない」
相方に劣らぬ屈強な身体を持ちながら、どことなく少年のような眼差しをしたひげ面の小男、ミラルは《ブランチ》と呼んだ機械の前に立つと各部を点検し始めた。
「ガロク、またお前さんは一つの腕ばかり使いおって。しかも単調な動作を何度も何度も‥‥こんな使い方では傷みが早いと言っておるじゃろうが。まったく‥‥」
「ふん。儂は儂のやり方で道具を使っているだけだ。この程度で壊れるような玩具なら、そっちに問題があるに決まっておるわ」
ミラルはぶつぶつ言いながら薄い金属のカードを取り出すと、《ブランチ》の胴に設けられたスリットに差し込む。小気味良い撥条音が鳴ると共に、隣のスリットから押し出されたカードをガロクに渡した。
「よぉく見ておれ、正しい《ブランチ》の使い方を」
ミラルが自分の鉄床で鍛造を始めると、《ブランチ》もその幹を震わせる。しかし、ガロクの時と違って複数の腕が交互に相槌を打ち、また、その速度も一挙手毎に僅かな揺らぎがあった。それでいて尚、ミラルの呼吸に合わせて金槌が鳴り響く様は、さながら丘の民に伝わる歌を思わせる。
「‥‥ふん。遊びで鍛冶など務まらんわ」
文句を言いながらもガロクは相方が用意した《ブランチ》を使い続けた。ミラルも相方が《ブランチ》を使うこと自体に文句は言わなかった。
二人のカードには、それぞれが体得した技術の粋が刻み込まれている。《ブランチ》はそれを模倣し、そして記録し続ける。万が一、どちらかが亡くなった後も相方に困らぬように、と。
やがて、雪原を渡る風の音に猫を讃えるミラルの歌声が混じり始めた。
-了-
0 件のコメント:
コメントを投稿