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2024/03/01

Elona春のSS -2024-

 (:3)刀乙のお題は「惨劇の歌声」です!
できれば作中に『修道女』を使い、《風のルルウィ》を登場させましょう。
#EloSSfes #shindanmaker
https://shindanmaker.com/331820


修道女のナルソーは鐘塔からパルミアの町並みを見渡すと、徐ろに口を開いた。
透き通るような声に乗せるのは賛美歌の一つ。
春の到来を称えるそれは、ナルソーのお気に入りだった。
長い冬は明け、南風が春を届ける。柔らかな、そして涼しげな風がナルソーの頬を撫でる。
物心がついた時には、風が好きだった。教会の宗派は違ったが、内心では風のために歌っていた。
そんな生活を数年。どこか後ろめたいような気持ちはあれど、不思議な高揚感も抱いていた。

最後の小節を歌い上げた時、一陣の風が鐘塔を吹き抜けた。
「うわっとと」
立っていられぬ程の突風に思わず尻もちをついたナルソーの横で、鐘楼がごうんごうんと揺れる。
「私を呼んだのは、お前かい」
鐘の音が響き渡る中で、それは確かに聞こえた。
「‥‥えっ」
ナルソーの目の前に女が浮いていた。
均整の取れた肢体を惜しげもなくさらけ出した黒髪の美女は、可視化された風に腰掛けたまま、ナルソーを見下ろしている。
「か、か、」
《風のルルウィ》。あまりにも突然で声にならないまま、今日まで歌を贈り続けてきた相手をただ見つめる事しか出来なかった。
考えるのを止めたナルソーの頭の代わりに、心臓がどくどくと早鐘を打つ。
「お前の歌はシルフにも負けないね。何事にも縛られず、こんな狭い牢獄など抜け出してしまえばいい」
女神の言葉をぼんやりと聞きながら、ナルソーは初めて見る成熟した女性の裸体から目を離せず――。
「――まあ、いけない子猫ちゃん」
《風のルルウィ》はニタリと口元を吊り上げると、来訪と同じく風が周囲を吹き抜け‥‥消えた。

それは夢だったのか、我を取り戻したナルソーは立ち上がろうとして、息を呑んだ。
女神の悪戯か、顕現の代償か。修道服はいつの間にか千々に切り裂かれ床に落ちている。
「え、そんな、どうして、僕、はだか‥‥」
見られた。自分の間抜け面だけでなく、隠していた体の違いも。
「あ、あ、あ」
一際高い歌声が鐘塔から響き渡った。

-了-

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