(:3)刀乙のお題は「千の魔法使い」です!できれば作中に『墓』を使い、魔術士ギルドマスター『レヴラス』を登場させましょう。
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ルミエスト墓所は町から離れている事もあり、普段は人の出入りも少ない。
すると、どうなるか。そこに獣が住み着く。肉を食らう魔物も集まる。
そして。
「――撃て!」
アデオスの指先から放たれた魔法の矢は盗賊団の一人を撃ち抜くと、背後の墓石を焦がし散った。
「次は後方で銃を構えてるあいつ‥‥ひゃっ!?」
墓地を利用して視界を遮るように動けば、進路もある程度は予測される。
足元に突然湧いて出た粘着質の網をかろうじて飛び越え、さらに放り込まれる薬瓶から石畳の上を横転して逃げた。
砕け飛散する液体の飛沫が防護服を焼き、嫌な匂いが鼻をつく。
「うっわ、用意周到~。もしかして冒険者くずれだったりして」
イルヴァにおいて速度は力だ。筋力よりも魔力よりも、足の速さが生死を分ける。
だからこそ、自分より素早い敵と遭遇し、幸運にも生き残れた者だけが、戦い方を学ぶ。
アデオスは地面に伏したまま氷碧色の髪をひと撫ですると、春を待つ周囲の雪を硫酸の水たまりに投げ込んだ。
「?‥‥追撃が無い」
瓶の投擲方向を見やれば、慌てふためく盗賊の一団を魔術士ギルドの仲間たちが囲んでいた。
「陽動ご苦労、アデオス君」
「あっ、導師レヴラス。お疲れさまです」
転移術で彼女の隣に現れたギルドマスターは、部下たちの動きをつぶさに眺めていく。
「距離を詰めずに魔法の間合いを保つのは良し。しかし」
矢弾の応酬から少し目を離せば、騒ぎに乗じて墓所から遠ざかる影がひとつ、ふたつ。
「全体を俯瞰する目が今ひとつ。立ち止まるのも減点」
レブラスはそのまま歩き出すように――、盗賊団のど真ん中へ一歩踏み出し。
「密集した陣形にボルトを撃ち込むのは定石。しかし、器物損壊への配慮に欠ける。減点」
右手の杖を軽く触れば、逃亡していたはずの二人が仲間たちに体当たりした。
「‥‥敵の観察を怠り、聖なる盾のみで済ませようとした。属性を勉強し直し」
横薙ぎに払われた戦斧がレブラスの首を捉え――霞んだかと思えば元の形から変わらぬまま。
「魔法には沈黙の霧、上出来。近寄る敵に暗黒の矢を撃ち続けたのは落ち着きが足りず」
先ほどアデオスに降り掛かった蜘蛛の糸、それを遥かに超える網が盗賊団の動きを止めた。
「さあ皆さん、まだレクは終わってませんよ」
ルミエスト墓所は町から遠く、風雨を凌ぐのにも丁度よい。
そのため、盗賊団が一時的な拠点に使う事がある。
だが、町や商人にとって彼らを野放しにしておく理由など有るはずもなく。
魔術士ギルドにしてみれば、殺した所で後腐れのない人間の集団を確保できる点から。
冒険者への依頼とは別に、ギルドが治安維持に向かう時もあった。
「導師レヴラス、実験材料の調達はともかく、墓所の清掃は市民に任せたりしないのです?」
アデオスはその手際の良さから、周囲に飛び散った血痕を洗い落として回る仕事を任されていた。
骨や臓器は一つにまとめ、使える物は持ち帰り、肉は供物に残していく。
「アデオス君。ここにはルミエストの祖先はもちろん、魔術士ギルドの先達も多く眠っています」
ギルドマスターが指差した墓標には、故人の氏名と、その死因が記されていた。
「魔術を極める道程は、様々な死に塗り固められています。マナの反動、発狂、崩れる身体‥‥」
背後からは、まだ息がある盗賊が捕獲球に吸い込まれていく悲鳴がそこかしこから上がっていた。
「私を、千の魔法を操る男と評する者もいます。実際は、私はそれ以上の力を持ちます」
「同時に、私が今の力に至ったのは、千を超える数多の魔術士が知識を遺して来たからです」
生き延びた者が記し遺す。同じ過ちを繰り返さぬように、と。
「この墓所は魔術士ギルドの歴史であり、敬うべき蔵書庫の一つでもあるのですよ」
-了-
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