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2018/03/01

Elona春のSS -2018-

(:3)刀乙のお題は「ふさふさした奴隷」です!できれば作中に『料理』を使い、戦士ギルドの番人『ドリア』を登場させましょう。
#EloSSfes
https://shindanmaker.com/331820



ノースティリスの玄関口、ポート・カプールの象徴たる巨大なアリーナ。
大理石を積み上げた荘厳な闘技場は、船乗りたちも寄港の際の目印にするという。
そこに併設された戦士ギルドでは正規の手続きで入隊する他にも、アリーナ剣闘士の中から見込みのある者をスカウトして、常に戦技を磨いていた。




「志願者がいるのか?」
ギルドの番人・ドリアは手元のロースト肉のサンドをよく噛み、飲み込んでから、目の前の獣人に聞き返した。
「ああ、正確にはウチからではなく、アリーナの紹介になる」
毎日開催されている闘技には、主に人間たちが戦うアリーナと、人間に飼われている闘獣を争わせるペットアリーナの二つがある。
獣人のニノはペットアリーナを主催する奇妙な人物として、町ではそれなりの地位を得ていた。
「初めはこちらで身請けしたんだが、俺を畜生と一緒にするな!と暴れてな」
一悶着あって通常のアリーナに送った奴隷が、まだ生きているのだという。
「ギルドの門をくぐるのに出自は問わぬ。ただ力を示せさえすれば良い。相手がコボルトでも、な」
「助かる。まぁ、明日も生きてるか分からない商売だが、その時は改めて声をかけるよ」
そう言ってニノはギルドを受付から立ち去り、ドリアはパンの残りを平らげた。

あの話は忘れてくれと、ニノは昼食を出前で済ませているドリアに告げた。
「聞いたよ。飛び入り参加の冒険者と相打ちになったそうじゃないか。観客は相当に盛り上がったろう」
実際に、その試合は紛れもない死闘だったと、ニノの語る口は僅かに興奮していた。
「冒険者は法に基づき病院送り。運が良ければ一命を取り留めるさ。虫の息のコボルトは、穴を掘り終えるまで石のベッドでおねんねだよ」
駆け出しの冒険者が初めて遭遇したコボルトの強打に沈む事は珍しくもない。
だが、アリーナに挑むだけの自信家ともなればそれなりの場数は踏んでいるし、それを覆す剣闘士は更に客を呼び込める。
「惜しい奴を亡くしたな。名前はあったのか?」
教えてくれなかった。と、ニノは首を横に振る。
「俺をよそ者扱いしなくなった時に、俺の仲間に名乗るんだ‥‥とよ」

病院で息を引き取った冒険者の名前を確認し、ドリアは入隊志願者名簿に線を引いた。
彼に与えられた試験内容はコボルトの討伐。その最後の一匹にアリーナを選んだのが運の尽きだったのだろう。
そこに、二人の獣人がやってきた。
「やあ、ニノ。今日はどうした。隣は護衛か?」
「いや、それがな‥‥」
穴に放り込んだコボルトの死体が、土を被せている途中で這い上がってきたのだという。
さすがに傷がまだ癒えてないのか、元剣闘奴隷はアリーナ主催に大人しく従っている。が、その眼差しは鋭く活気に満ち溢れていた。
「悪運の強い奴さ。俺は自分の目で見た光景が未だに信じられないよ」
話が変わってすまないと頭を下げるニノを軽く微笑んで許し、ドリアは隣のコボルトを真正面から見据えた。
「話はニノから聞いている。お前の実力なら試験も必要ない。戦士ギルドへようこそ。名前を教えてもらえるか」
若い獣人の戦士は、そこで初めて名乗りを上げた。

-了-

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