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2016/09/01

Elona秋のSS -2016-

(:3)刀乙のお題は「木枯らしの少年」です。できれば作中で「酒場」を使い、鋼鉄竜『コルゴン』を登場させましょう。
#EloSSfes
https://shindanmaker.com/393187




カラマツが立ち並ぶ木々の間を木枯らしが吹き抜ける。
北方の夏は短いとはいえ、それは早すぎる冬ではないか?
否。霜月の息吹を運んできたのは青ざめた肌の大木。
何よりも周りのそれとは異なり、のろのろと這いずっている。
その様子を、木陰から見つめる複数の視線。
リーダー格の男が、静かに左手を動かす。少し離れた位置に隠れていた別の男たちが山刀を振り下ろした。
ザッー、松の枝葉を激しく揺らす音が響くや、這いずる大木の上部、節くれだった枝の連なる胸元に幾つもの蔦が巻き付いた。
「行くぞ!」
リーダーが木陰から躍り出る。両手に構えた重厚な斧をふらつかせる事もなく、青い樹人へ駆け寄った。
短い雄叫びと鈍い打撃音、わずかに遅れて生木をねじるような呻き声が森を走る。
動きを封じている蔦の表面が徐々に霜に覆われ、ぽろぽろと砕け散り始めた。
仲間たちが懸命に足止めをする中、二度三度と斧を叩き込む。
刻まれた傷口が幹の半分まで届くか届かないか、という所で樹人の腕を封じる蔦の一つが外れた。
怒り狂った樹人の拳は、トロールのそれを凌駕する。横っ飛びに身を投げ出し、命からがら撲殺を免れた。
自由になった腕で束縛を引き剥がし、下生えに横たわる男へ向き直る。斧を打ち込まれた場所が、みしりと悲鳴を上げた。
その時、横合いから男の仲間が飛び出し猛然と体当たりを仕掛けた。
樹人から再び呻き声が漏れる。たまらず地面に拡がる根で踏ん張ろうとしたが、それがいけなかった。
傷口からメリメリと音を立てて幹が引き裂かれる。
どうと倒れた大木へ、手に手に得物を持った男たちが群がると、あっという間に枝打ちを済ませ胴体を鋸で切り分ける。
「急げ、腹ぺこが匂いを嗅ぎつける前にずらかるぞ」
男たちが去ってしばらく。森の奥から樹人とは比べ物にならない地響きが木々を揺らした。

ノースティリス北部に広がる針葉樹林。
内海の端と森の間に残る草原地帯に点々と小さな村がある。
地図にも載らないそれらの一つに、青ざめた木材を積んだ荷車が到着した。
氷結樹と呼ばれるこの蠢く木は、その体内に冷気を宿しており、枝葉は屋根を葺いて寒さを凌ぎ、樹皮は防寒具に加工される。また、幹の部分は保冷箱の素材となる。
そういった数々の恩恵を得られるものの、あまり成長した個体は村人の手には負えなくなるため、森の奥から抜け出た若木の雄を選んで刈り取るようにしていた。
このはぐれ樹人を村の者たちは「木枯らしの少年」と呼び、誰かがその姿を目撃すると木こりや猟師たちが集まって、行動範囲を調べたり進路沿いに罠を設置するのだった。
狩りが無事に済んだ祝いにと、村長の家で酒盛りが始まった。小さな村では王都の役人や旅人が訪れることも稀で、宿や酒場は村長の家が兼任している。
「今日のは、どうだった?」村長が男たちに訊く。
「いや、話に聞いていたよりも若かった。子供って程でもないが、もう少し大きい方が良かったな」
そのおかげで軽々と逃げ帰って来れたんだけどな。と笑い声が響く。
「森の向こうから鋼鉄竜が足を伸ばすようになってからは、狩りの獲物も少なくなっちまったしなぁ」
針葉樹林の北に連なる雪山、その麓に棲まうコルゴン竜は目につく物は何でも平らげる悪食ぶりで、生きたままの暴れる大山羊を丸呑みにしたとか、腐りきった何かの死骸すら骨も残さず消え去ったと噂される。
もちろん、竜の名に違わぬ大きな体躯と、その身を覆う鱗は鋼にも似て、鋼鉄竜と恐れられていた。
幸いにも今までは北の山中を狩場にしていたため、村が直接の害を被ることは無かった。が、この先もそうとは限らない。
もし、コルゴンが森を縄張りに決めたら。その範囲を南に広げたら。
王都に嘆願書を送り、討伐の兵士を遣わしてもらうのか。それが上手くいく見込みはあるのか。
知らず知らずのうちに、男たちの酒盃を挙げる手が止まっていた。
長い冬を迎えそうだった。

-了-

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