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2016/03/01

Elona春のSS -2016-

風切快夢のお題は「つまらない守護者」です!できれば作中に『手袋』を使い、看板娘『シーナ』を登場させましょう。
('ω')
(ε:)
(,m,)
(:3)
└(┘◔‿◔)┘

不細工な猫だ。
椅子に腰掛けたロイターは酒盃を傾けながら、酒場の棚に居座っている小さな獣をちらりと見やる。
どこから見ても可愛げが見当たらない。もしかしたら、幸運を呼ぶと信じられているその黒い体毛だけで居留を許されているのかもしれない。
野良猫にしてもムラの目立つ毛並みをのんびり整えていたと思ったら、つまらなそうにあくびを一つ。
口直しにと、酒場を元気に歩き回る娘に視線を移した。
ヴェルニースの酒場で給仕に勤めるシーナは器量の良い娘で、その小気味良い働きぶりから常連客も多い。
外遊するザナン皇子の護衛に就いた兵士たちも、宿営先の看板娘を見るなり暇さえあれば酒場に足を運んでいる。
肉置き豊かな腰回りの飜える様子に、口元が弛む者も逆に引き締める者も、皆一様に目が輝いているのもやむ無しか。

その時、酒場の一画でひと際大きな声が上がった。
酔った部下たちが「触らせろ」だの「ザナンの誇り」だのと言い争う傍で、シーナが困った笑顔を浮かべて仲裁に入っている。
馬鹿共が。テーブルに盃を置き、天鵞絨の手袋をはめ直す。分別を失くした部下たちを教育しなければなるまい。

椅子から立ち上がると同時に、何かを叩きつける甲高い音が鳴り響いた。

ふいに静まり返る酒場の中、音の出処――古いピアノの上で黒猫が後足で耳の後ろを掻いている。
上司が音楽にうるさい事を知る部下たちが、揃ってこちらの顔を伺ってきた。
「――猫に、音の良し悪しを問うつもりか? 少し頭を冷やせ。それと‥‥おい、お前」
先ほどシーナの前で騒いでいた男の一人が、青ざめた顔で返事をする。大方、娘の尻を触ろうとして生真面目な同僚と口論になったのだろう。
「酒のツマミを食われているが、いいのか?」
指をさす先のテーブルでは、いつの間に忍び寄ったのか黒猫が不細工な顔一杯に肉を頬張っていた。と思ったら、軽やかに床へ飛び降りそのまま店の外へ駆け出していった。
あっけに取られた酔客たちから笑い声が漏れだし、やがていつもの穏やかな喧騒に元通る。

蒸留酒を味わいながら、泥棒猫の逃げ去った入り口をぼんやりと眺める。
先ほどの口論にロイターが割って入れば、その場は収まるとはいえ店の雰囲気は沈んだままだったであろう。
かと言って部下の自治に任せていたら乱闘騒ぎになり、ザナンの面子に泥を塗っていたのは想像に難くない。
となれば、シーナだけでなく我々もあの黒猫に助けられた事になる。
「‥‥大した守護者だ。負けてられんな」
独りごちると、ロイターは手元の盃を一息に飲み干した。

-了-

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