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(ԾᾥԾ)
王都パルミアと港町ポート・カプールを結ぶ街道の中間に位置する炭鉱街、ヴェルニース。
勢いを増す酒場の喧騒も、ひとたび繁華街を離れれば煮炊きの香りも薄れる宵のすぎ。
街の北側に広がる民家の一室、窓際に置かれたベッドに潜り込んだ少女リリアンは、隣に子犬を寝かしつけながら母に寝る前のお伽話をせがんだ。
ベッド脇の椅子に腰掛けた母は、「そうね。じゃあ今夜は――」と窓の外に目を向け、夜空に浮かぶ星々の中で、輪状に輝く星座に目を細めた。
「――『天の結婚指輪』のおはなしをしましょう」
今は昔。イルヴァにたくさんの神さまが暮らしていた頃。
月の女神ラクリナは、イルヴァの神様たちの一人に恋をしました。
その神さまの名前は伝えられていないけれど、ラクリナと親しい神様たちは誰もが険しい顔でラクリナに考えなおせと言いました。
その頃、イルヴァの神様たちは幾つかに別れて争い事を繰り返していたのです。
大地を削り、海を割り、天には炎の幕を張り。イルヴァを大きな実験場にしながら喧嘩ばかりしていました。
「実験場って、なに?」
「実験場はね、粘土で作ったお家みたいなものよ。自分で好きなように形を変えたり、いらない所を削ったりしたの」
「そこに暮らしていた人たちは、困らなかったの?」
「もちろん、困ったでしょうね。でも神様たちのすることだから、我慢していたのね」
やがて、恋人と出会うのを見咎められたラクリナは地上に降りる事を禁じられ、それから来る日も来る日も涙を流して暮らしていました。けれど、恋人を想う気持ちはどんどん膨らみ、とうとう姉妹の静止を振り切りイルヴァに向けて飛び立ちます。
イルヴァを包む天の炎はラクリナの身を焼きつくし、地上に辿り着いたのは僅かな光の欠片だけでした。そして恋人は先の戦に敗れ、塵と消えた後でした。
ラクリナの死を悲しんだ神様たちは、女神の欠片と恋人の塵を重ねて空に送りました。
「それが、夜空の輪っか星。天の結婚指輪のおはなしです」
途中で寝息を立てていた娘を起こさぬよう静かに布団をかけ直すと、母は愛娘の寝顔をそっと見つめた。
いつか、この子も恋に身を焦がすのだろう。素敵な人に巡り逢ってほしい。けれど、決して燃え尽きないで、その先の幸せを選んでほしい。
そう願うと、母は窓際のカーテンを静かに閉じた。
―了―
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