(:3)刀乙のお題は「すばらしい扉」です。できれば作中で「槌」を使い、パルミア王『ジャビ』を登場させましょう。 #EloSSfes
パルミアの王政がまだ廃止されていなかった頃。
王宮の宝物殿に一人の賊が忍び込み、持てるだけの財宝を盗みだした事があった。
程なくして賊は捕らえられ縛り首となったが、盗まれた財宝の行く先は判らずじまいだったと記録されている。
レシマス。ノースティリスの中央に深く根付く、いにしえの迷宮。
その深層で片膝をついた薄汚いなりの男が、興奮を抑えるようにゴクリと喉を鳴らした。
他の遺跡群と比べても明らかに深い場所まで潜り続けてきた男の目の前に、精緻な彫刻の施された大扉が立ちはだかっている。だが、だが――
全身全霊をその指先に注いだ男の耳奥に、微かな撥条音が響いたのがつい先程。
震える両手を前方に押し出せば、絢爛豪華な扉はゆっくりと左右に開かれていった。
小部屋を埋め尽くす金銀財宝の山を見て、男は周囲に潜んでいるかもしれないモンスターに気取られぬよう、押し殺した声で喝采を上げた。
心の内で幸運の女神に祈りを捧げながら、男は取り出したずだ袋に成功の証を片っ端から搔き込んでいく。持ちきれない分は、また後で取りに来ればいい‥‥。
数日後、今度は男女二人組の冒険者がやって来た。彼らは最初の男が持ちきれなかった財宝を、目につくものは全て運び出していった。
更に数日後、巨大な槌を肩にかけた大柄な戦士が小部屋に踏み込んできた。男の正面に複雑な模様が彫られた壁がある他は、飾りの柱や財宝が置かれていた台座に至るまで見事に何も無い。
「そうだろうとは思っちゃいたが、エリアス姉弟の奴ら‥‥噂通りのガメつい連中だぜ」
徒労混じりの文句を吐き捨て、来た道を戻ろうと振り返った男の目に、開けっ放しの扉が映った。
きらびやかな彫刻の施された大扉は、それ自体が芸術品としての素晴らしい価値がある。ましてやレシマスの深奥を守ってきた由緒ある大扉だ、物好きな貴族に売り込めば、持ち帰るだけの苦労に見合う報酬にはなるだろう。
男は扉に傷をつけぬよう慎重に狙いを定めると、壁の蝶番に向けて自慢の大槌を振り下ろした。
―――
――
―
ジャビ王には気がかりな事があった。
パルミア王家の者だけに伝わるレシマス中層の秘密。そこに仕組まれた偽の玄室と幾ばくかの財宝、そしてそれらを根こそぎ持ちだした冒険者たち。
「レシマスを踏破した冒険者」の噂が世に知れ渡って久しく、もはや誰もが枯れた遺跡に目もくれなくなっていた。今までは。
しかし、二大国間戦争に疲弊した諸国は新たな領土と資源の確保に乗り出し始め、中でもザナンの目がパルミアに、いや、レシマスに向けられているように思えてならなかったのだ。
「‥‥捨て置くことで守ってきたが、そろそろ打つ手を変えるべきか‥‥」
しばらくの後、王命によりレシマス調査隊が結成される事となる。
-了-
0 件のコメント:
コメントを投稿