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2014/06/01

初夏のEloSS

 (:3)刀乙の小説が読みたいの!
「足が速い靴」が登場する、できれば『斧』と《機械のマニ》も出てくる小説を書いて欲しいの! 
#EloSSfes http://shindanmaker.com/354401
('ω')
(ε:)
(,m,)
(:3)
( ‘ᾥ’ ) <流石に一日で小説は無理ッス

  明るく照らされた部屋の中央で、男が椅子に座りながら両腕を胸前でしきりに動かしていた。
 部屋の広さは小さな礼拝堂の更に半分ほどであったが、その大半を用途不明の機材が占め、天井からは金属の骨組みに無数のチューブが巻きついた機械仕掛けの触腕が幾つもぶら下がっている。それらは絶えず動き続け、此方で何かを摘んでは別の場所に移したと見れば、彼方では眩しく火花を散らし、時おりガスを漏らしては朧げに発光を繰り返していた。
 瞬きもせずに目の前の作業に集中する男の瞳は、不規則に変化する周囲の光量に遅滞なく拡縮する。その機織りにも似た仕草の度に、男の目の前に一つの作品が生まれつつあった。
 それは、人の背丈よりも低い馬車に似た形の乗り物だろうか。側面の両側からは丸みを帯びた分厚い板が延び、胴部の後ろでは二つの大きな筒の先端が顔を覗かせている。
「‥‥防腐の処理よし。各数値も誤差範囲内。次は実測だな」
 男が出来上がったばかりの作品を眺めていると、工房の入り口が微かな音を立てて横に開いた。
 風と共に入ってきたのは、一糸まとわぬ姿の女。歩を進める毎に短い黒髪はさらさらとなびき、均整の取れた肢体を惜しげもなく晒すその背後では、大気がはためく翼のように、碧くゆったりと渦巻いていた。
「ルルウィ、工房に入る時は背中のそれを仕舞えと前にも言ったぞ。此処の設備は不規則で無駄な変化を求めていない」
 ルルウィと呼ばれた女は男の文句を鼻で笑い飛ばすと、鈍色に輝く馬車状の物体に目を向けた。
「何者も風を阻む術など持たないわ。マニ、もちろんお前にも。それで‥‥今度の玩具はひどく不格好ね」
 男――マニは椅子から立ち上がると出来上がったばかりの作品に近寄り、右手でその表面に軽く触れた。
「これは、空を飛ぶ為の靴だ。足に履くことで、人が鳥のように自由に空を飛べる」
 ルルウィは小馬鹿にした視線を靴と呼ばれた塊に向けた。なるほど左右対称な作りは人の脚に対応しているのだろうが、肝心の足を入れる場所が見当たらない。それは履くというより、脚もろともすげ替える仕組みなのだろう。目の前の男の価値観は、どうにも理解に苦しむ。
「これが空を飛ぶですって? 笑わせてくれる! 素材は吟味したつもりなのでしょうけれど、この突き出た無様な板切れは翼の真似事? 『斧』の間違いじゃなくて?!」
 たまらず笑い出したルルウィに目もくれず、マニは自らの傑作を何と呼ぼうか思案していた。
「ほう‥‥『加速装置』か。言い得て妙だな。短気なお前にしては上出来な名前だ」
 それから不機嫌に「どうせ墜ちるに決まっている」とか「人が空を飛ぶなど傲慢だ」とか言い出した女を尻目に、マニは飛行試験の予定を組み始めた。
「まぁ、お前は黙って見届ければいい」

  恥じらいもなく腹を抱えて工房の床を転げまわる女を静かに見つめながら、マニは損傷した体の修復に務めていた。
 加速装置は二つの筒から炎を吹き出すと、ゆっくりと前進しながらその身を浮かべた。が、離陸してすぐに左右の噴射がつり合わなくなり、激しく回転し始めたかと思えば腰から上を捨て置いて空高く舞い上がり‥‥爆発した。
 マニはひしゃげた腕で這いずりながら工房まで戻ると、ほうほうの体でベッドに身を預けたのがつい先程。その間、ルルウィはずっと笑いっぱなしだった。
「まったく、暖機運転中に猫が乗り上げていたのが不味かったか? 奴らには困ったものだな、無駄な不規則など求めていないというのに‥‥」
 ようやく立ち上がったルルウィはベッドに近づくと、マニの顔を覗き込みながら勝ち誇るように微笑んだ。
「だから言ったじゃない。お前如きが空を飛ぶなど出来はしない、身の程を知れと‥‥アハハ!」
 再び笑い出した女をしばし見つめたあと、マニは目を閉じて口を開いた。
「お前と肩を並べて飛ぶ空は、この瞳にどう映るのか知りたくてな」
 ルルウィは唐突に笑うのを止めると、フンと鼻を鳴らして男に背を向けた。
「私に追いつけるわけ無いでしょう‥‥ま、せいぜい養生しなさいな」
 興が醒めたと言わんばかりにルルウィは振り返ること無く扉の向こうに消え、部屋には主の治療に専念する機材の静かな駆動音だけが満ちていた。

 「追い越してみせるぞ‥‥」

-了-

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